夏休みの風を切り、松阪駅から九鬼駅へ。蒸気機関車で旅した忘れられない思い出

夏休みの風を切り、汽車の旅へ

昭和40年代、前半から後半の思い出です。今の松阪駅とは全く違いますが、昔、こういう電車に乗って旅をしました。

夏の陽射しがまぶしく照り輝く頃、松阪駅のホームには、どこか誇らしげな蒸気機関車が静かに停まっていました。

黒く力強い車体から立ち上る白い煙を見つめるだけで、これから始まる旅への期待が胸いっぱいに広がります。

蒸気機関車に乗る機会は多くありませんでした。

その中でも、従姉妹のお母さんのご実家へ招かれ、松阪駅から九鬼駅まで旅をした日のことは、今でも鮮やかに心に残っています。
ホグワーツに向かうハリーポッターが乗ってそう?
きかんしゃトーマスにも出てきそうですね。

ガタゴトと響く木製椅子のぬくもり

座席がどんなだったか、覚えていません。えんじ色の布がまいてあったかもしれません。写真はイメージです。

車内へ入ると、木の温もりが伝わる座席が並んでいました。

腰を下ろすと、ほどよい硬さが心地よく、旅が始まる喜びを静かに感じます。

やがて、

「ボーッ――」

力強い汽笛が響き渡り、汽車はゆっくりと動き始めました。

ガタゴト、ガタゴト。

規則正しいリズムを刻みながら進む列車に揺られ、窓の外を流れる山々や田畑を眺める時間は、幼い私にとって特別な夏の冒険でした。

トンネルを抜けるたびに広がる夏の景色

松阪駅から九鬼駅までの区間(約105km)には、なんと38個ものトンネルがあったそうです。
紀伊半島の厳しい山々やリアス式海岸の入り組んだ地形を貫くため、特に山越えの区間と海沿いの区間に集中しています。

山あいへ入ると、たくさんのトンネルがありました。

「窓を閉めて!」と大人たちが忙しそうに窓を閉め始めます。

子供たちが一番わくわくするところです。

窓を閉めても、どこからともなく石炭の香りがふんわりと漂い、蒸気機関車ならではの趣を感じさせてくれました。

その香りも、汽車の音も、旅の大切な思い出の一つになっています。

そして長いトンネルを抜けた瞬間。

視界いっぱいに、青く輝く太平洋が広がりました。

「海だ!」

思わず窓へ顔を寄せ、きらきらと光る海を夢中で眺めたあの瞬間。

夏の陽射しを受けて輝く海は、今でも心の中で美しい景色として息づいています。

心に残る夏休みの宝物

松阪駅から九鬼駅までの蒸気機関車の旅。

汽笛の響き、木製の座席、石炭の香り、そしてトンネルの先に広がる青い海。

一つひとつの情景が、夏休みの思い出をやさしく彩っています。

筆を持ちながら季節の移ろいを感じる時間にも、こうした幼い日の記憶は静かに寄り添ってくれます。

懐かしい風景を思い返すたび、心は穏やかになり、夏の風がそっと吹き抜けていくような気持ちになります。

昭和40年代前半まで、紀勢本線ではC57形(通称:貴婦人)などの蒸気機関車が客車を引いて走っていました。
煙を上げながら山間部や沿岸部を抜ける姿は、当時の紀伊半島を象徴する懐かしい風景です。
こんな汽車に乗って旅をしてみたいと思いませんか?

急行紀州・キハ58系です。松阪から九鬼まで運んでくれました。昭和40年代半ばから後半にかけては、蒸気機関車からクリーム色と朱色のツートンカラーが特徴的なキハ58系気動車(急行「紀州」など)や、普通列車用のディーゼルカーへと世代交代が進んでいきました。

松阪駅から出発すると、しばらくは内陸の田園風景や山あい(宮川沿いや荷坂峠などの山越え)を抜けていきますが、紀伊長島(きいながしま)駅の手前あたりから一気に車窓がひらけ、輝く熊野灘(太平洋)の海が姿を現します。

車窓から海が見える主な区間・見どころ

  1. 紀伊長島駅周辺(長島港・江ノ浦)
    • 山を抜けて紀伊長島に近づくと、左手にハマチの養殖場や穏やかな入江(長島港)が見えてきます。ここが旅の中で最初に海が出会う印象的な瞬間です。
  2. 紀伊長島 ─ 尾鷲 間
    • リアス海岸に沿って走るため、トンネルをいくつも抜けるたびに、青い入江や小さな港町、静かな海がパッと広がります。
  3. 尾鷲 ─ 九鬼 間
    • 尾鷲駅を過ぎると、紀伊半島特有の急峻な山と海が隣り合わせの地形になります。長めのトンネルを抜ける合間合間に、深い藍色をした雄大な熊野灘の海や断崖の景色を垣間見ることができます。

松阪からの長い山道のあと、トンネルを抜けた瞬間に広がる青い海は、まさに旅のクライマックスを感じさせるワクワクする絶景です。


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