万葉集「水無月」の恋歌|六月の袖に宿る涙とかな書道の美しさ
水無月に袖は乾かず ― 万葉集の恋歌 ―
「六月(みなづき)の
地さへ裂けて照る日にも
我が袖乾めや
君に逢はずして」
万葉集巻十に収められた、美しい恋の歌です。

現代語にすると、
「六月の、地面さえ裂けるほど照りつける暑い日であっても、あなたに逢えないままなら、涙で濡れた私の袖が乾くことはない」
という意味になります。
旧暦の六月、「水無月」は、今の七月頃にあたります。
梅雨明けの強い日差しや、乾いた地面を思わせる季節です。
この歌では、
「地面さえ裂けるほどの暑さ」
という激しい自然の描写と、
「それでも乾かない袖」
という恋の悲しみが重ねられています。
太陽の熱で乾いてしまいそうなほど暑いのに、涙が次々とあふれ、袖は乾かない。
逢えない苦しみが、そのまま涙となって流れ続けているのです。
万葉集では、「袖」は涙を表す大切な言葉としてたびたび登場します。
涙を直接書かず、
「濡れる袖」
「乾かぬ袖」
「袖の雫」
などで、心の悲しみや恋しさを表現します。
たとえば、
「あしひきの山のしづくに妹待つと我が袖濡れぬ」
のように、待つ想いを袖の濡れに重ねる歌もあります。
また後の時代には、
「ほさぬ袖」
「袖の海」
「袖の浦」
など、涙で濡れる袖を大きく広げた表現も生まれていきました。
この一首は、万葉集の中でも特に、
「自然の厳しさ」と「恋の切実さ」
が美しく重なり合った歌として、多くの人に愛されています。
かな作品として書くと、
「六月」のゆるやかな流れ、
「裂けて照る」の力強さ、
「袖乾めや」の余韻がとても美しく映えます。
静かな恋心を、やわらかな仮名で味わいたくなる一首ですね。

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